北朝鮮の聖地
一度崩れてしまった日程を立て直すことは大変なことだ。
通訳、指導員コンビも手配の変更や確認に悪戦苦闘しているのがよくわかる。その昔、旅行業に携わってきた私にはこんなことは至極当たり前のこと。だが、彼等なりの精一杯の努力を見ていると誠意が感じられ、とても気持ちがいい。
今日は妙香山から高速道路を南に一気に下り平壌にはいる。市内観光を済ませて、高麗ホテルへチェックインという忙しいスケジュールとなった。
平壌市郊外の万景台に着いた。
ここには金日成主席が誕生から幼年時代を過ごした家が保存されている。いわば北朝鮮の「聖地」なので、観光客が最初に訪れなければならない場所とされている。
生家は質素な平屋で、納戸や生け垣など、当時の様子をそのまま残している。今でも「偉大な首領様」を偲ぶ参拝者は絶えない。生家の入口には夥しい数の参観者が列をなし、入場までは1時間待ちの混雑ぶりだ。
時間がない我々は首領様には失礼して、生家の外から内部の説明を受けることにした。生家前の広場で目に着いたのは各国からの大勢の観光客。中国人やロシア人が大多数だが、韓国からも結構多いらしい。今日も韓国から、バス3台ほどの医者や福祉関係者の大型観光団が訪れているという。
北朝鮮の宗教
限られた人、限られた場所かもしれないが、我々が想像する以上に両国間の交流が深まっていると実感した。意外というか驚いたのは、日本でも韓国でも問題となっている統一教会の関係者も多く訪れているらしい。
統一教会教の祖、文鮮明の故郷がここからそう遠くない所にあり、この地が巡礼コースのひとつとなっているという。北朝鮮と統一教会に何かつながりがあるのだろうか。
この国ではカトリックもプロテスタントもあり、信仰の自由が保証されているそうだ。海外からのキリスト教徒もそれぞれの教会を訪れ、祖国統一と平和の祈りを捧げているという。この国には、まだまだ知らないことがたくさんありそうだ。
金日成の銅像
市内に入り最初に訪れたのは、万寿台にある巨大な金日成の銅像と記念塔。金日成が亡くなったときも、多くの市民がこの銅像の前で泣き崩れる姿が日本のテレビでも盛んに報道されていた。
平壌に住む結婚したカップルは、花束を持って必ずこの銅像に報告に訪れるようだ。この日も銅像の前でたくさんのカップルが記念撮影をしていた。
私は強制的に買わされた一束千円の花束を銅像に手向けた。
北朝鮮の凱旋門
次に向かったのは凱旋門。祖国解放と朝鮮独立の偉業を成し遂げた金日成を称えて造られたもの。高さ60mの堂々たるアーチ型の門は、パリの本物の凱旋門そっくりで見る方が気恥かしくなる。
本物より10m高いのが自慢のようだ。この凱旋門のもう一つの自慢は、国内の選りすぐりの美女がガイドとして配属されていることだ。彼女たちは観光客の求めに応じ、盛んに笑顔を振りまき記念撮影に応じていた。
主体(チュチェ)思想
チュチェ思想塔は「主体思想」の確立を記念して建てられている。高さが170mあり展望台からの眺めは抜群で360度市内が一望できる。
眼下には大同江が悠然と流れ、金日成広場、立ち腐れのホテル、マスゲームで有名なメーデースタジアム、そして私が事前に調べていた赤軍派の残党が住んでいる居住区がマップから推測された。
するとこの真冬なのに、なぜか突然眼下に噴水が立ち上がった。
川の中の噴水でスイスのジューネーブ湖のそれに似せて作られている。こちらの方がスイスのものより1メートル高いという。これはこの国の「何でも最大」の好みを示しているようだ。何だか子供の自慢話のようで思わず笑ってしまう。
北朝鮮は「主体思想を骨格とする革命国家」といわれている。「人間があらゆるものの主人であり、すべてを決定する」という。
まことに結構な思想だが、そのあとに「注釈」がつく。
「人民は首領の指導のもとでのみ革命の主人公になれる」と、すなわち「首領以外に指導者は存在しない」と説明してきた。
そして、主席一族の後継者体制も確立されている。この国では「思想における主体、政治における自主、経済における自立、国防における自衛」が最優先課題として主席の指導のもと国づくりを進めてきたが、現状はどの分野でも惨憺たる結果となっている。
北朝鮮の地下鉄
高い所から気分を変えて地下に潜ることになった。
平壌にはいずれも短い区間であるが2路線の地下鉄がある。駅のエスカレーターは物凄い速さで地下70mまで下ると、そこには日本の地下鉄のイメージとまったく違う空間があった。
プラットフォームは大理石をふんだんに使った宮殿のような造りで、豪華絢爛。何故ここまでするのか理解に苦しむほど。一区間だけの乗車体験だったが車両は旧式で座席はボロボロ、アンバランスも甚だしい。
「凱旋」「勝利」「統一」と、いかにも北朝鮮の人が好みそうな駅名が付けられていた。