北朝鮮の旅5 平壌市内観光と柳京ホテル

北朝鮮の旅

廃墟ホテル(柳京ホテル)

暫く大同江に沿ってドライブを楽しんだ。

市の中心部を貫流しているこの川は長さが450キロあり日本の信濃川より長い大河だ。川に沿う遊歩道には草木の植栽が多く、春になれば緑が溢れ、市民の憩いの場となるようだ。

まるで公園都市の様相。「この国は崩壊する危機にある」との日本の報道を聞いてきた観光客がまず驚くのは、整然とそびえ立つ記念モニュメントもさることながら、この公園のような都市景観だといわれている。

やがて目の前に異様な光景が現われた。

先程、チュチェ思想塔からはっきり見え、廃墟となった柳京ホテル。

高さにして380メートルくらいの106階建てのホテルで、ピラミッド型をしている。4年前に起工されたが、資金不足や電力不足で建設が中断されたままの状態となっている。

ソウルの6・3ビルやニューヨークのエンパイヤ・ステートビルを意識し完成すれば、これらより少し高いビルになる予定だったらしい。

車がビルの脇を過ぎると、窓も外装もない裸のまま放置されているのがよくわかる。それも平壌市内で最も高い建築物なので目立ってしようがない。

市民は見て見ぬふりといった感じで、存在しないことになっているという。

長年の放置で風化が進み、その悲惨な姿を晒したくないためか付近一帯は立ち入り禁止となっている。

この幽霊ホテルに関しては、私は事前にしっかりと調べていたが、ガイドからの説明は一切なかった。私も彼等の心中を察知して見て見ぬふりを装った。

今では、壊すことも建設再開もままならない立ち腐れ状態だ。北朝鮮の権力を示すはずだったが、廃墟のまま街の景観を壊している。

平壌市内

平壌は集中的に開発された特別市で、人口は220万人。全人口のおよそ10分の1が居住している。

あたふたと駆け足で回った市内観光だったが、街の印象はと聞かれれば「美しい街で、形容としてチリひとつ落ちていない」といえる。

だが、あまりにも人工的で生活の臭いがない。

高層アパートや記念塔が整然とそびえ立つ景観は、前もって抱いていたイメージとまったくかけ離れていた。

しかしこれが、自国の優位性をアピールするため全力を傾けて整備した結果、いわば宣伝のためのショーウインドウの役割を果たしている。

けれど、費やされた驚異的なエネルギーは認めるものの、次から次へと豪壮な建造物ばかりを見せつけられると少々うんざりしてくる。

高麗ホテルと赤軍派

夕方遅く平壌駅近くの高麗ホテルに到着した。

45階建で、ツインタワーとなっている特徴のある建物で、日本のマスコミにもたびたび登場している。海外から訪れるほとんどの観光客が利用することになるホテルだが、サービスや設備の点でやや質が落ちるようだ。

ホテルの周辺は、日本食レストランや民族レストランが多く、繁華街になっている。だが、夜になると店の灯りを除いて街の通りは真っ暗になり、とてもひとり歩きは出来そうもない。

これも電力事情が極端に悪いせいなのだろう。このホテルのロビーには40年以上前に「日航機ハイジャック事件」を起こした赤軍派の人間が出没して日本人旅行者と雑談しているという噂がある。

ホテル近辺を散策

]翌朝、ロビーで待機していると指導員から連絡があり「通訳の奥さんが夜中に急に産気づき明け方無事に出産した。そのため出発が1時間ほど遅れる」とのことだった。

そして「それまでホテルの近辺でも散歩をしましょうか」と彼から提案があった。私には願ってもないチャンスで、嬉しさで内心は小躍りしていた。

この国では、観光客は対外的に解放された場所以外自由に動いたり、見ることもできない。ましてや単独行動は禁止されている。

今回はこういった不自由さを十分了解した上での旅行だが、できれば街中をのんびり歩いてみたいというささやかな期待もあった。実際は、これすら難しいということがだんだんと分かってきたので、喜びはより大きかった。

1943年両国生まれ。両国高校卒業。早稲田大学在学中に通訳ガイド試験合格。当時流行りの学園紛争にハマり大学を中退。通訳ガイドを経て、ラケットメーカーやライター会社の社員として主に海外業務に携わる。サラリーマン時代やその後の自営業の合間に訪れた国は40ヶ国以上。
趣味は映画鑑賞・ぶらり街歩き・読書

葛山好隆をフォローする
北朝鮮の旅旅行記
葛山好隆をフォローする
タイトルとURLをコピーしました